線形論理の健全性定理 Oct 24, 2018 「線形論理の相意味論」で健全性定理の主張を紹介した. この定理を実際に証明する. 健全性定理の証明は基本的に単純な(しかし面倒な)帰納法である. 健全性定理 シークエント$ \vdash \Gamma $がシークエント計算で証明可能ならば,$\Gamma$はトートロジーである. つまり,$ \vdash \Gamma $が証明可能ならば,任意の相構造$\mathcal{S} = (M, \bot, S)$について$1_{M} \in S(\Gamma)$である. 証明 $\mathcal{S} = (M, \bot, S)$を任意の相構造とする. 証明の長さに関する帰納法で証明する. 証明の根の部分が$ \displaystyle{ \frac{} {\vdash A, A^{\bot}} \text{(Identity)} } $のとき. $A \par A^{\bot} = A \linimp A^{\bot}$である. 任意の$N \subseteq M$について$1 \in N \linimp N$であるから,特に$1 \in S(A) \linimp S(A) = S(A \linimp A) = S(\Gamma)$である. 証明の根の部分が$ \displaystyle{ \frac{\vdash \Gamma, A \quad \vdash A^{\bot}, \Delta} {\vdash \Gamma, \Delta } \text{(Cut)} } $のとき. $1 \in S(\Gamma \par A), \ 1 \in S(\Delta \par A^{\bot})$として$1 \in S(\Gamma \par \Delta)$を示せばよい. $S(\Gamma \par A) = S(\Gamma^{\bot}) \linimp S(A)$かつ$S(\Delta \par A^{\bot}) = S(A) \linimp S(\Delta)$であることに注意する. $1 \in S(\Gamma^{\bot}) \linimp S(\Delta)$を示せばよいが,そのためには任意の$m \in S(\Gamma^{\bot})$に対して$m \in S(\Delta)$であることを示せばよい. $m \in S(\Gamma^{\bot})$が任意に与えられたとする. まず$1 \in S(\Gamma^{\bot}) \linimp S(A)$より$m \in S(A)$である. 次に$1 \in S(A) \linimp S(\Delta)$と$m \in S(A)$より$m \in S(\Delta)$である. 今$m$は任意だったから,示された. 証明の根の部分が$ \displaystyle{ \frac{} {\vdash \one} \text{($\one$)} }$のとき. $1 \in \{ 1 \}^{\bot\bot} = S(\one)$であるからよい. 証明の根の部分が$ \displaystyle{ \frac{ \vdash \Gamma } {\vdash \Gamma, \bot} \text{($\bot$)} }$のとき. $1 \in S(\Gamma)$を仮定して$1 \in S(\Gamma \par \bot) = S(\Gamma) \par \bot$を示せばよい. より一般に$1 \in N \subseteq M$のとき$1 \in N \par \bot$を示せばよい. $N \par \bot = N^{\bot} \linimp \bot$である. 任意に$m \in N^{\bot}$が与えられたとして$m \in \bot$を示せばよい. 今$m \in N^{\bot}$なので,任意の$n \in N$に対して$mn \in \bot$が成り立つ. $1 \in N$なので$n = 1$ととれば$m = m \cdot 1 \in \bot$が成り立つ. よって$ 1 \in N^{\bot} \linimp \bot = N \par \bot$である. 証明の根の部分が$ \displaystyle{ \frac{\vdash \Gamma, A \quad \vdash B, \Delta} {\vdash \Gamma, A \otimes B, \Delta} \text{($\otimes$)} } $のとき. $1 \in S(\Gamma) \par S(A)$,$1 \in S(\Delta) \par S(B)$を仮定して$1 \in S(\Gamma) \par S(\Delta) \par (S(A) \otimes S(B))$を示せばよい. $S(\Gamma) \par S(A) = S(\Gamma)^{\bot} \linimp S(A)$,$S(\Delta) \par S(B) = S(\Delta)^{\bot} \linimp S(B)$,$S(\Gamma) \par S(\Delta) \par (S(A) \otimes S(B)) = S(\Gamma)^{\bot} \linimp (S(\Delta)^{\bot} \linimp (S(A) \otimes S(B)))$であることに注意する. このことから,より一般に$H,K,L,N \subseteq M$が$1 \in H \linimp K$,$1 \in L \linimp N$を満たしているならば$1 \in H \linimp (L \linimp K \otimes N)$となることを示せばよい. $h \in H$が任意に与えられたとする. $h \in L \linimp K \otimes N$を示せばよい. そのためには,任意に$l \in L$が与えられたとして$ hl \in K \otimes N$を示せばよい. 今,$h \in H$と$1 \in H \linimp K$より$h \in K$,$l \in L$と$1 \in L \linimp N$より$h \in N$が成り立つので$hl \in KN = K \otimes N$である. ゆえに$1 \in H \linimp (L \linimp K \otimes N)$が成り立つ. 証明の根の部分が$ \displaystyle{ \frac{\vdash \Gamma, A, B} {\vdash \Gamma, A \par B} \text{($\par$)} } $のとき. これは定義より$S(\Gamma, A, B) = S(\Gamma, A \par B)$だからよい. 証明の根の部分が$ \displaystyle{ \frac{} {\vdash \Gamma, \top} \text{($\top$)} } $のとき. $S(\top) = \top = M$であった. 任意の$N \subseteq M$に対して$1 \in N \linimp M $が成り立つ. したがって,$1 \in S(\Gamma)^{\bot} \linimp M = S(\Gamma) \par \top$が成り立つ. 証明の根の部分が$ \displaystyle{ \frac{\vdash \Gamma, A \quad \vdash \Gamma, B} {\vdash \Gamma, A \& B} \text{($\&$)} } $のとき. $N, L, K \subseteq M$が$ 1 \in N \linimp L$,$1 \in N \linimp K$を満たすとする. このとき$1 \in N \linimp (N \with K)$を示す. 任意に$ n \in N $が与えられたとする. $n \in N \with K = N \cap K$を示せばよい. 今,$ 1 \in N \linimp L$より$n \in L$であり,$ 1 \in N \linimp K$より$n \in K$である. したがって$ n \in L \cap K $である. よって$ 1 \in N \linimp (N \with K)$である. あとは$N = S(\Gamma)^{\bot}$,$L = S(A)$,$K = S(B)$とすればよい. 証明の根の部分が$ \displaystyle{ \frac{\vdash \Gamma, A_i} {\vdash \Gamma, A_1 \oplus A_2} \text{($\oplus$-$i$)} } $のとき. $i=1$のときだけ示す($i = 2$のときも同様). $N, L, K \subseteq M$が$1 \in N \linimp L$を満たすとする. このとき$1 \in N \linimp (L \oplus K)$を示す. 任意に$n \in N$が与えられたとする. $n \in L \oplus K = (L^{\bot} \cap K^{\bot})^{\bot}$を示せばよい. そのためには,任意に$l \in L^{\bot} \cap K^{\bot}$が与えられたとして$nl \in \bot$を示せばよい. 今,$1 \in N \linimp L$より$n \in L$である. また$ l \in L^{\bot} = L \linimp \bot$なので$ nl = ln = \bot $である. したがって$1 \in N \linimp (L \oplus K)$が示された. あとは$N = S(\Gamma)^{\bot}$,$L = A_1$,$K = A_2$とすればよい. 証明の根の部分が$ \displaystyle{ \frac{\vdash \Gamma, A} {\vdash \Gamma, ?A} \text{($?$D)} } $のとき. $ N, K \subseteq M$が$1 \in N \linimp K$を満たすならば$1 \in N \linimp ?K = N \linimp(K^{\bot} \cap I)^{\bot}$であることを示せばよいが,これは($\oplus$-$i$)の場合と同様の議論を行えばよい. 証明の根の部分が$ \displaystyle{ \frac{\vdash \Gamma, ?A, ?A} {\vdash \Gamma, ?A} \text{($?$C)} } $のとき. $N, L \subseteq M$とする. さらに$1 \in N \par ?L \par ?L = (L^{\bot} \cap I) \linimp ((L^{\bot} \cap I) \linimp N)$とする. このとき$1 \in N \par ?L = (L^{\bot} \cap I) \linimp N$を示す. 任意に$l \in L^{\bot} \cap I$が与えられたとして$l \in N$を示せばよい. $1 \in (L^{\bot} \cap I) \linimp ((L^{\bot} \cap I) \linimp N)$より任意の$ m \in L^{\bot} \cap I$に対して$lm \in N$が成り立つ. 特に$ ll \in N $が成り立つ. 今$l \in I$なので$l = ll$である. よって$l = ll \in N$である. したがって$1 \in N \par ?L$が示された. あとは$N = S(\Gamma)$,$L = S(A)$とすればよい. 証明の根の部分が$ \displaystyle{ \frac{\vdash \Gamma} {\vdash \Gamma, ?A} \text{($?$W)} } $のとき. $N, L \subseteq M, \ 1 \in N$とする. $1 \in N^{\bot} \linimp ?L = N^{\bot} \linimp (L^{\bot} \cap I)^{\bot}$を示す. 任意に$n \in N^{\bot}$と$l \in L^{\bot} \cap I $が与えられたとして,$nl \in \bot$を示せばよい. $n \in N^{\bot} $と$1 \in N$より$ n = n \cdot 1 \in \bot$である. また$l \in I$より$l \in \{ 1 \}^{\bot\bot} = \bot \linimp \bot$である. よって$ nl = ln \in \bot $である. したがって$1 \in N^{\bot} \linimp ?L$が証明された. あとは$N = S(\Gamma)$,$L = S(A)$とすればよい. 証明の根の部分が$ \displaystyle{ \frac{\vdash ?\Gamma, A} {\vdash ?\Gamma, !A} \text{($!$)} } $のとき. $\Gamma = A_1 , \dots , A_n$であるとする. $ N_1, \dots , N_k, L \subseteq M$とする. $1 \in ?N_1 \par \cdots \par ?N_k \par L$として$1 \in ?N_1 \par \cdots \par ?N_k \par L$を示す. $1 \in ?N_1 \par \cdots \par ?N_k \par L = (N_1 \cap I) \linimp \cdots \linimp (N_k \cap I) \linimp L$より,任意に$ n_1 \in N_1 \cap I , \ \dots ,\ n_k \in N_k \cap I$が与えられたとき$n_1 \cdots n_k \in L$である. この$n_i$たちについて$n_1 \cdots n_k \in !L = (L \cap I)^{\bot\bot}$を示せばよい. 特に$n_1 \cdots n_k \in L \cap I$を示せばよい. $n_1 \cdots n_k \in L$はすでに示したので残りは$n_1 \cdots n_k \in I$を示すことである. $(n_1 \cdots n_k)(n_1 \cdots n_k) = n_1 n_1 \cdots n_k n_k = n_1 \cdots n_k $なので$n_1 \cdots n_k$はべき等元である. また各$i$について$n_i \in \{ 1 \}^{\bot\bot} = \bot \linimp \bot$なので$n_1 \cdots n_k \in \{1 \}^{\bot\bot}$が分かる. したがって$n_1 \cdots n_k \in I$である. よって$1 \in ?N_1 \par \cdots \par ?N_k \par L$が示された. あとは$N_i = S(A_i)$,$L = S(A)$とすればよい. これで健全性定理が証明された. 参考文献 J.-Y. Girard. Linear logic. Theoretical Computer Science, Vol. 50, pp. 1-102, 1987. J.-Y. Girard. Linear logic: Its syntax and semantics. In J.-Y. Girard, Y. Lafont, and L. Regnier, editors, Advances in Linear Logic, pp. 1-42. Cambridge University Press, 1995.