2つの量子系$A, B$があるとする. 量子計算では,量子系$A$の一般の状態を,$A$の状態を保ったまま$B$にコピーすることは不可能である. これを量子複製不可能定理(no-cloning theorem)という. このことは以下のように簡単に証明できる.

量子複製不可能定理の主張の形式化

量子系$A, B$に対応するヒルベルト空間は どちらも$H := \Qbit = \langle \ket{0}, \ket{1} \rangle$であるとする. このときユニタリ作用素$U$であって, $A$の量子状態を,$A$の状態を保ったまま$B$にコピーするようなものは存在しない. つまり任意の状態$\ket{\phi}_A \in H$について

を満たすものは存在しない.

証明

状態をコピーできるようなユニタリ作用素$U$が存在すると仮定して矛盾を導く. $ \ket{\phi}_A := \alpha \ket{0}_A + \beta \ket{1}_A $ とおいて計算すると

である. 一方,

も得られるが,明らかにこれら2つの式の右辺は異なる. よって量子状態を複製するようなユニタリ作用素$U$は存在しない.

量子状態の移動

量子複製不可能定理は量子状態のコピーを作ることができないことを主張している. しかし,量子状態を系$A$から系$B$へ(系$A$の状態を破壊して)移動させることは可能である. これは量子テレポーテーションを用いて行うことができる.

参考文献

  • 細谷暁夫. 量子コンピュータの基礎 [第2版]. SGCライブラリ Vol. 69, 2009.